【詐欺被害】まさか自分が!キャッシュカード詐欺で心が折れた高齢者のケア

警察官や金融機関職員が暗証番号を聞いたり、キャッシュカードを封筒に入れさせることは絶対にありません!
キャッシュカードは渡さない!暗証番号は教えない!

前回、キャッシュカード詐欺盗の被害者(高齢者ひとり暮らし)K子さんに関わった体験から「知っておいて損はないこと」をご紹介しました。

果たして被害に遭ったお金は返ってくるのでしょうか?
そして、お金を盗られたことで深く傷つく心…。
今回は、その辺りをお話しします。

この記事の目次

キャッシュカード詐欺盗の被害は補償される?

現在は、キャッシュカードが偽造されたり盗難に遭って不正利用された時の法律が整備されています。

預金者保護法

「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」を略して「預金者保護法」あるいは「預貯金者保護法」といいます。

金融機関(銀行や信用金庫、信用組合、農協、郵便局、労働金庫など)が発行する個人用キャッシュカードでATMから不正に引き出された預貯金に対しては金融機関が補償をするという法律です。
被害が補償されるかどうかを次の表にまとめてみました。

預金者保護法の補償制度 カードを偽造された カードを盗まれた
過失がなかった場合 全額補償 全額補償
過失があった場合 全額補償 被害額の75%
重大な過失があった場合 補償されない 補償されない

補償を受ける最重要ポイントは、被害者の過失がどの程度かです。

しか~も、しかも!
過失の判断は金融機関が行います。
警察じゃないんです。

どういうこと?
複数枚のキャッシュカードで被害に遭った場合、A銀行は補償してくれたけど、B銀行は補償してくれなかったというように対応が分かれることがあるのです。

なんやねんそれ!と言いたいところですね。

重大な過失があった場合とは

預金者の重大な過失となりうる場合とは、「故意」と同視しうる程度に注意義務に著しく違反する場合で、典型的な事例は以下の通りです。

  1. 他人に暗証番号を知らせた場合
  2. 暗証番号をキャッシュカード上に書き記していた場合
  3. 他人にキャッシュカードを渡した場合
  4. その他1から3と同程度の著しい注意義務違反があると認められる場合

これだけ見ると、補償なんて無理!と思いますよね。

だって、キャッシュカード詐欺盗では、被害者はキャッシュカードを他人(犯人)に渡してしまっています。
しかも、ATMからお金が引き出されたということは、他人(犯人)に暗証番号を教えてしまったか、被害者と犯人との会話から特定できる暗証番号だったということでしょう。

被害を金融機関に届けても補償はないと言われるケースが多いのはこのためです。

過失があった場合とは

預金者の過失となりうる場合の事例は以下の通りです。

  1. 次の(1)または(2)に該当する場合
    1. 当行から生年月日などの類推されやすい暗証番号から別の番号に変更するよう個別的、具体的、複数回にわたるお願いをしたにもかかわらず、生年月日、自宅の住所・地番・電話番号、勤務先の電話番号、自動車などのナンバーを暗証番号にしていた場合であり、かつ、キャッシュカードをそれらの暗証番号を推測させる書類など(免許証、健康保険証、パスポートなど)とともに携行・保管していた場合
    2. 暗証番号を容易に第三者が認知できるような形でメモなどに書き記し、かつ、キャッシュカードとともに携行・保管していた場合
  2. 次の(1)のいずれかに該当し、かつ、(2)のいずれかに該当する場合で、これらの事由が相まって被害が発生した場合
    1. 暗証番号の管理

      当行から生年月日などの類推されやすい暗証番号から別の番号に変更するよう個別的、具体的、複数回にわたるお願いをしたにもかかわらず、生年月日、自宅の住所・地番・電話番号、勤務先の電話番号、自動車などのナンバーを暗証番号にしていた場合
      暗証番号をロッカー、貴重品ボックス、携帯電話など金融機関の取引以外で使用する暗証としても使用していた場合

    2. キャッシュカードの管理

      キャッシュカードを入れた財布などを自動車内などの他人の目につきやすい場所に放置するなど、第三者に容易に奪われる状態においた場合
      酩ていなどにより通常の注意義務を果たせなくなるなどキャッシュカードを容易に他人に奪われる状況においた場合

  3. その他1、2と同程度の注意義務違反があると認められる場合

三菱UFJ銀行のWebサイトから引用

簡単にいうと暗証番号を次のようなものにしていたらダメってことです。
生年月日
✖住所番地
✖電話番号
✖自動車ナンバー
✖暗証番号(パスワード)の使いまわし

そして、キャッシュカードの保管は、次のようなものはダメってことです。

暗証番号のメモを通帳やキャッシュカードと一緒に保管
✖簡単に盗られるような場所に保管

これらの暗証番号の設定とキャッシュカードの保管状況は「高齢者あるある」です。

私の両親だって同じです。。。
他の暗証番号にしてと言っても覚えられないからと言って変えないし、変えたとしてもどこかにメモしてわかる場所に置くでしょう。
まさに「あるある」
ご家族のおじちゃんおばあちゃんは大丈夫ですか?

お金は返ってくる?

とても残念なのですが、正直なところ「返ってきたら御の字」でしょう。

一般的な損害保険では、詐欺は対象外。

税金では、「盗難」であれば雑損控除によって所得控除を受けられるのですが、特殊詐欺は対象外

返ってきたら御の字の気持ちで、金融機関に補償申請をし審査結果に望みをかけるところでしょうか。

悲しいかな、大切な財産を取り返すのは難しいです。

被害高齢者の心の傷

お金の被害に目がいきがちですが、忘れてはならないのが被害者の心の傷。

「騙された、被害に遭った、お金は戻ってこない」がどれほど心に傷を残すか。

「自分は大丈夫。詐欺は他人事」と思っていたなら、ショックはなお大きいです。
自尊心を傷つけられ、自分が情けなくて情けなくていたたまれなくなるんです。
心がすり減るんです。

その姿は本当にお気の毒です。

供述調書作成は心身が消耗する

警察へ通報すると、当然、警察がやってきて捜査が始まります。
被害届の提出になるのですが、その際、被害者供述調書を作ります。
これは高齢者にはつらいものだと思います。

K子さんは、冬の寒い中、警察へ行き、何時間もかけて被害者供述調書を作りました。
終わって出た一言が「頭がおかしくなりそう」でした。

普段からメモを取るK子さんは、ご自分の記憶をメモにしていました。
けれど、警察、銀行、ご近所さん、駆け付けた家族に状況を説明しているうちに頭が混乱し、起きたことを時間を追って説明することができなくなったり、話が変わってしまったりしました。

騙されたショックがとても大きかったのですね。
人はショックが大きいと、自分の心を守るため出来事をなかったことにしたり、記憶をすり替えることが普通にあります。
誰だってその可能性があります。

そんな状態で、人生初であろう警察の一室で担当刑事さんとマンツーマンで事情を聞かれ供述調書を作るのです。
供述調書は公的なものなので、事件を客観的に、詳細に文章にしていきます。
客観的であればあるほど、事実を突きつけられることになります。

K子さんは、騙した犯人への怒りより自分を責める気持ちでいっぱいになってしまったようです。
騙された怒りや悲しみは犯人ではなく、自分へ向けられ、こんな風に思います。

  • 大変なことになって家族に顔向けできない
  • 自分が馬鹿だから被害に遭ったんだ
  • 騙された自分が悪い
  • 恥ずかしい
  • 死んでしまいたい

家族が絶対やってはいけないたった一つのこと

家族が絶対にやってはいけないたった一つのこと。
それは「責める」こと。

家族はつい「おじいちゃん(おばあちゃん)、何やってるの!」「なぜ騙されたの!」「騙される方が悪い」って責めがちです。
でも、これは絶対にやってはいけません。

家族に責められ、ご近所からも色眼鏡で見られたらどれほど傷つくか…。
自死を選ばれる高齢者もいらっしゃるのです。

特殊詐欺の手口は巧妙で、犯人はプロです。
騙される方が悪いのではないのです。
世間には、騙される方が悪いという風潮があります。
違います。
騙す奴が悪いのです!

家族に絶対やってほしいこともたった一つ

それは話を「聴く」こと。
被害に遭って気丈にふるまっていたとしても、本当は心が深く傷つき、自分を責め続けています。
人によっては詐欺に遭ったことを誰にも話せなくて一人で抱え込んでいる方もいらっしゃいます。

だからこそ、話を聴いてあげてください。
同じ話を繰り返しても、時系列が無茶苦茶でも。
うん、うん、そうだね、そうよね、と。

人はただ話を聴いてもらうだけで自浄していく面があります。
自浄とは、それ自体の働きだけできれいになることをいいます。
気持ちが楽になり、元気を取り戻していきます。

まとめ

特殊詐欺の被害者は高齢者が大半を占めます。
老後の資金を失うだけでなく、騙される自分が悪いと自分を責める高齢者は多いと聞きます。
私が出会ったK子さんもそうでした。

私は職業として感情カウンセラーをしています。
クライアントさんの話を私自身がブレることなく聴き続け、寄り添うことで、クライアントさんが元気を取り戻される場面をたくさん見てきました。
今回のK子さんも。

もし、ご家族が特殊詐欺に遭ってしまったら「一切責めずに話を聴く」ことを忘れないでくださいね。

前回の記事はこちら。

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この記事を書いた人

心と感情の専門家/薬剤師

夫婦 暗黒期を乗り越え
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