地球の歴史―先カンブリア時代⑨ 多細胞生物の出現―

地球が誕生した46億年前。

そのときから肉眼で見える大きさで硬い殻を持った生物の化石が初めて産出する5億4200万年前までの先カンブリア時代。

約40億年も続くこの時代は、古い時代から冥王代、始生代、原生代に分けられています。この時代の中で、最も新しい時代である原生代の最後の時代が新原生代です。

最も過酷な氷河期の存在と多細胞生物の出現で特徴づけられるこの時代を多細胞生物の出現を中心にみていきましょう。

 

この記事の目次

新原生代の概要

新原生代の概要

原生代最後の時代である新原生代は、10億~5億4200万年前までをいいます。

この時代には、地球史上最も過酷な氷河期の訪れがあったとされています。三度あったとされる氷河期のうち、大半の大陸地塊が低緯度にあったときにおこったスターティアン氷期およびマリノア氷期は、赤道域まで氷床におおわれた「スノーボールアース」の状態にあったとされています。

最初の全球凍結があった古原生代の後に真核生物が誕生し、この時代の全球凍結の後には多細胞生物が誕生しています。

(参照:https://www.ichigojyutsu.com/roots/snowball_earth/

 

多細胞生物とは

多細胞生物とは

単細胞生物がたった一つの細胞からなり、全ての働きがその一つの細胞によって営まれているのに対して、多細胞生物は複数の細胞が一体となって、一つの生命体となっています。

今も生息している生物のうち、ミドリムシやゾウリムシ、アメーバーなどが単細胞生物にあたります。それに対し、動物界や植物界に所属するものは全て多細胞生物です。

 

始めて地球上に生命が誕生したとされるのが37億年前。

その当時から今までを生命の進化という観点で考えたとき、その転換期となるポイントはいくつかあります。

しかし、「生命の問題を時間の軸に沿って考えたとき、最大のジャンプはどの時点で起きたのかと問われれば、それはとりもなおさず単細胞生物だったものから多細胞生物が生み出された瞬間である」ということが言われています。

つまり、多細胞の出現というのは、それくらい生命の進化にとっては革新的な出来事だったのです。

では、どういう点が今後の生命の進化にとって重要だったのでしょうか。

 

多細胞生物のメリット

多細胞生物のメリット

単細胞生物では、いっぽうで食物を体内に取り入れながら、なおかつ種の保存のために減数分裂を繰り返さなければなりません。1つの細胞でこれら2つの働きを担うことは、かなりの負担がかかります。この問題を解決したのが多細胞生物です。

生殖と摂食という2つの働きを分けたのです。

 

自分の種と同じ個体を作る生殖という働きを生殖細胞に一手に引き受けてもらうことで、その他の細胞(体細胞)の負担を軽くしました。

つまり、生殖細胞に遺伝情報を保持する安定の役割を担ってもらうことで、体細胞は生殖細胞のような万能性は必要なくなるわけです。

 

体細胞の特徴

体細胞の特徴

体細胞は環境の変化など外圧状況に応じて新たな機能を獲得していく変異の役割を担っています。そのため、さまざまな機能をもつ細胞へと分化し、より高度な機能を獲得し、運動機能(摂食機能)の発達が実現できたのです。

 

ちなみに、外圧には、「自然外圧」、「種間圧力」、「個体間圧力」があります。

自然外圧は生物を取り巻く物理的・化学的・地学的条件、総じて自然環境一般からの圧力のことです。特に生物の進化においては、この自然外圧が重要になってきます。

そして、地球環境が大きく変わる最初の段階においては、自然環境の変化から種が絶滅の危機に瀕することがおこりうるため、外圧の中でも自然外圧に適応するということが種の生き残りのためには最重要となります。

 

種間圧力は他の生物(他の種)との間で生み出される圧力のことです。自然環境に適応した後の段階では、この種間圧力が種の保存において大切になってきます。

個体間圧力は同じ種(あるいは群)内部で生じる個体間からの圧力です。他種との共存もしくは競争の結果、その種にとって安定した状態になると個体間圧力が重要となります。

 

体細胞は、有性生殖においては次世代に受け継がれません。ある目的に特化してしまい、それ以外の細胞にならない分化した細胞と、何種類かの異なった機能を持つ細胞に分化する能力を持った細胞があります。

たとえば、私たち人間は、37兆2000億個の細胞からなりたっています。ちなみに、人間の60兆ともいわれていましたが、『人体生物学紀要』(Annals of Human Biology)という雑誌の2013年11・12月号に,イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニを筆頭著者とする「人体の細胞数の推定」(An estimation of the number of cells in the human body)という論文で、人の体全体の細胞数,それぞれの器官の細胞数を,文献的そして数学的なアプローチを使って統計的に計算し,成人の細胞数は「37兆2000億個」であると発表しています。

 

そして、私たち人間を形作っているすべての細胞もたった1つの受精卵から生み出されたものです。それが機能分化し、それぞれが別の役割を担った細胞が作り出されています。例えば、脳には神経細胞とグリア細胞があり、膵臓にはインスリンなどを分泌する内分泌細胞や摂取した食べ物の消化を助ける酵素を分泌する外分泌細胞があります。

 

このように、多細胞生物は、単細胞生物のような万能性を捨てて、分化と統合(=組織化)によって生きる道に可能性収束し、高度な進化を実現することが出来たのです。

この分化と統合の機能が成立するためには、生命体を構成する細胞同士のコミュニケーションが重要になってきます。

 

というのも、機能の異なったそれぞれの細胞が1つの受精卵からなっているということは、働きは違えど同じDNAを持っているということになります。つまり、生命体を構成する細胞同士がコミュニケーションをとって、それぞれがDNAのうちどの情報を使うかを決めることで初めて専門分化が可能になるわけです。

 

多細胞生物の起源

多細胞生物の起源

 

多細胞生物が誕生したとされるのが、10~14億年前。

多細胞生物の出現が生物進化の過程の最大のジャンプといわれるように、最初の単細胞生物誕生から多細胞生物が誕生するまで約20億年以上 、真核生物誕生からでも実に数億年という長い時間を要しました。

 

多細胞生物とはいっても、出現当時の多細胞生物は単なる細胞の集合体であったとされています。

生命誕生からの長い単細胞生物の歴史の中で、細胞の内部はどんどん進化を遂げ、葉緑体やミトコンドリアなどを作りだし、細胞自体も大きくなっていました。より大きな生き物は小さな生き物を食べることができ、食物連鎖の原点が出来上がったのです。

 

しかし、小さな生き物たちのなかで、これに対抗して進化の最終兵器を考えだした生き物がいました。“体が小さいなら、みんなで集まれば大きくなれる”。これが単細胞生物が集合体となった要因であり、多細胞生物の起源になったと考えられているのです。

 

そして、東大の野崎久義准教授(進化生物学)ら日米の研究チームらが最近発表した論文によると、単細胞生物から多細胞生物への進化の鍵はヒトのがん抑制遺伝子と同じ遺伝子なのだそうです。
この遺伝子は突然変異すると癌が進行することが分かっています。細胞分裂の周期を調節する働きがあり、単細胞生物の分裂周期を変えて多細胞化をもたらしたのではないかと考えられているのです。

 

まとめ

先カンブリア時代、最後の時代である原生代末期の新原生代について、今後の生命の進化の転換点となる多細胞生物の出現を中心にまとめてみました。

一つの細胞で全部の機能を果たすよりも、多くの細胞が協力し合う段階に移行することで高度な進化を遂げることができたというところが、人間社会の摂理にも通じるところがあり、生命の進化の過程から学ぶことが多い気がしました。

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この記事を書いた人

研修医期間終了後、神経内科医として主に急性期病院にて13年間勤務。
3年間の回復期病棟での勤務を経て、平成24年より在宅医療に従事。2018年5月ヘテロクリニック開設。

多くの患者さんにかかわる中で、より健康であるためには、病気にだけフォーカスをあてるのでは不十分なのではないかと実感し、医療の分野以外にも学んでいる。

高齢になっても若々しく元気な方たちの特徴から、自分らしく生きることが重要性を感じ、そのためのツールとして脳と心についての情報をフェイスブックページやホームページを通じて発信している。

日本内科学会 内科認定医、日本神経学会 神経内科専門医、医学博士、認定産業医、日本臨床栄養協会 サプリメントアドバイザー、感情カウンセラー協会認定 感情カウンセラー、リズ・ブルボーのからだの声を聞きなさいスクール カウンセラーコース終了、NLPプラクティショナー、著書に『クスリに頼らない免疫力向上計画』(みらいパブリッシング)、『脳の取扱説明書』(みらいパブリッシング)

HP:https://hetero-clinic.com/
HP:https://www.harmonista.org/
HP:https://harmonista.jp/

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