アダルトチルドレンを生み出す「毒親」とは

生きづらさを抱えるアダルトチルドレン(AC)とは「機能不全家族で育ち成人した人々」のことです。

多くの場合、家族が機能不全となってしまう要因が親にあるため、親の在り方がACを生み出すとも言えます。

今回は子どもをアダルトチルドレンにしてしまう「毒親」について見ていきましょう。

この記事の目次

「毒親」について

「毒親」について

「毒親」とは

アメリカのセラピスト・著作家であるスーザン・フォワード博士が1990年に出版した「毒になる親(Toxic Parents)」で使われ広まった言葉。

“子供に対するネガティブな行動パターンを執拗に繰り返し、そのネガティブな行動パターンがその後の子どもの人生を支配させてしまう”親のことを指します。

「毒親」という言葉が生まれた経緯

スーザン・フォワードは
「人間関係が上手くいかない」
「気持ちが落ち込んで、なかなか物事に手がつかない」
といった問題を抱える成人男女を長年カウンセリングしていました。

その悩める人々の多くが、子ども時代に親からしっかり心を支えてもらった体験がない。
むしろ逆に心や体を傷つけられたリ、過大な圧力をかけられていたのです。

そのため心の健全な成長が妨げられ、自分が生きていることに価値を見出せない苦しみを抱えていたのです。

しかし、自分が直面している問題や悩みと「親」との因果関係に気付いている人は少なかった。

多くの人は自分の人生に起こる問題の大きな要因が自分の親にあると考えることに抵抗を感じてしまいます。
そのため無意識の内に避けてしまい、過去の親子関係を見ることが心理的な盲点になりやすかったからです。

そこでスーザン・フォワードは考えました。

「この世に完璧な親などいない。どんな親にも欠点があり、誰でも時にはその欠点をさらけ出してしまうこともある。」

しかし中には
「『子供に対するネガティブな行動パターンを執拗に繰り返し、そのネガティブな行動パターンがその後の子どもの人生を支配させてしまう』親もいる。」

「こういった親を上手く表す言葉があれば、悩める人々が自身の本当の問題と向き合いやすくなるのではないか」

こういった親の呼び方を考えて浮かんだのが、公害を引き起こす「有毒物質(toxic material)」でした。

有毒物質が都市や自然環境の中で広がって影響を与えてしまう。
それと同じように、子どもの心の傷の影響が成長とともに、その子が関わる人間関係や仕事・パートナーシップなどの問題に広がっていく。

そこで「毒になる親(Toxic Parents)」という言葉を考えたのです。

毒親のタイプと子どもへの影響

毒親のタイプと子どもへの影響

毒親が子供に対してどんなネガティブな行動パターンを取るのか、いろんな見方があります。

アメリカの臨床心理学博士ダン・ニューハースは子供を不幸にする親の特徴として「子どもをコントロールばかりしてしまう」ことを挙げています。
「子供を有害にコントロールする」観点から毒親の八つのタイプを見てみましょう。

毒親は以下のタイプのいづれか、もしくは複数の要素が組み合わせっていると考えると分かりやすいでしょう。

(1) かまいすぎて子供を窒息させる

【特徴】
子どもに密着しすぎて、子どもの心を踏みにじる

【言動・考え方の傾向】
・子どもが耐え難いほどあれこれ過剰に詮索する
・自分が望むことと子どもが望むことの区別がつかない
・子どもが一人の独立した個人であろうとすると、それをくじこうとする
・子どもが自分と異なる意見や好みを持つことを容認できない
・子どもが自分で決めたいと思う重要なことを決めてしまう

【子どもに起こりがちな影響】
・他人との間に健全な境界線をひくことができない
・異性と愛情のこもった親密な関係を作り上げることが困難
・強い依存心を持つ
・率先して何かを行う積極性が持てない

(2) 子どもの幸せを取り上げる

【特徴】
子どもとの心の交流が極めて疎遠で、子どもを精神的に見捨てる

【言動・考え方の傾向】
・機嫌を損ねると愛情を引っ込めてしまい、承認を与えなかったり口をきかないなどして子どもをコントロールする
・子どもをほめたり、スキンシップを与えることがほとんどない
・大きくなった子どもには「縁切りする」とか「遺産は相続させない」などと脅して圧力をかける
・幸福や幸運はめったにないものだと思っている
・愛情は子どもをコントロールための道具だと思っている

【子どもに起こりがちな影響】
・自己不信が増す
・抑うつ感がつのる
・物事に対する期待感や自信が持てない
・「自分は愛情に欠けていて、人からも愛されない」と感じる
・人と付き合う能力の発達が遅れる

(3) 完璧主義者である

【特徴】
子どもに完全であることを果てしなく求め、子どもをつぶしてしまう

【言動・考え方の傾向】
・すべてにおいて完璧であるよう子どもにプレッシャーをかける
・実現不可能な高い基準をもうける
・欠陥、乱雑、清潔でないことを極度に恐れる
・いつも何かに追い立てられて、言動が脅迫観念的
・外見、肩書、物質的なもの、人がどう思うか、などが非常に大事

【子どもに起こりがちな影響】
・わき起こる自然な感情を抑えるため、自分が何を感じているのか分からなくなる
・「どんな人か」ではなく「何をしたか」で自分や他人を評価するものだと考える
・いつも追いかけられ、強制されているように感じる
・抑うつ感がある

(4) カルトのような立ち振る舞い

【特徴】
「私は全てを分かっていて、常に正しい。」という態度で接し、子どもの精神的な発達を阻害する

【言動・考え方の傾向】
・厳格な規則、形式、主義、信条で家族全体をコントロールする
・疑いがあることや不確実さを極度に恐れる
・異議、質問、新しい考えを容認しない
・特定の組織、宗教団体、企業などに自分を一体化させることで安心感を得ようとする

【子どもに起こりがちな影響】
・自分の意見で率先して行動することができない
・何事においても不審感が強かったり、また逆にすぐ信じてしまったりする
・知的発達がゆがめらえる
・人との付き合いが偏り、世界観が狭まる

(5) 言動が支離滅裂

【特徴】
安定した態度で子どもと接することができず、子どもを混乱と不安にさせる

【言動・考え方の傾向】
・子どもの心を混乱させ、何を言い出すか予測がつかないことでコントロールする
・正反対のことを同時に指示したり、どちらにもとれる指示をする
・厳しく叱ったかと、同じことをしてもあまり叱らなかったりする
・猫かわいがりをするかと思うと、急に冷淡になって突き放したりする

【子どもに起こりがちな影響】
・自分や他人の感情が分からない
・警戒心が過剰
・他人や世の中への信頼感が少ない

(6) 常に自分の都合が優先する

【特徴】
自分の満たされなかった想いや感情を発散するために子どもを使い、子どもを疲弊させる

【言動・考え方の傾向】
・子どもを親の愚痴を聞く相手にさせたり、子どもを親のフラストレーションを発散させるための攻撃対象にする
・親に忠実で言うことを従順に聞くよう、子どもに要求する
・他人が必要としていることや気持ちについて気付かない
・子どもと競争しようとしたり、子どもの楽しいをしらけさせようとすることがある
・人をすぐ批判するが自分が批判されることには過敏になる

【子どもに起こりがちな影響】
・自己像が貧しい
・利用する、利用される人間関係にはまりがち
・無条件の愛とはどんなものか感覚的に分からない
・自分が感じていることよりも、他人が求めていることに意識がいきがち

(7) 身体的な虐待をする

【特徴】
精神的な虐待に加え、身体的な暴力や性的な行為を子どもに行う

【言動・考え方の傾向】
・暴力をふるって子どもを服従させる
・親が暴力をふるったのは子どものせいだとする
・親には子どもに体罰を加える権利があると考えている
・衝動を抑えることができない
・子どもの拒否や不服従に過剰に反応する

【子どもに起こりがちな影響】
・うつ症状を持つ
・アルコール、恋愛、買い物などに対する依存症になる
・いつも周囲の様子を伺ってしまう
・何か問題が起こった時、すぐに自分が悪いと考えてしまう
・他人を信頼するのが困難(人間関係に問題を抱えやすい)

(8) 子どもにた対する責任を果たせない

【特徴】
一人の人間として子どもの親としてすべきことができない

【言動・考え方の傾向】
・子どもに罪悪感や同情心を起こさせることによってコントロールする
・子どもの世話をするのではなく、子どもに世話をしてもらおうとする
・完璧主義者やカルト的または虐待的な相手と結婚していることが多い
・配偶者の有害な立ち振る舞いから子どもや自分を守るために立ち上がることができない

【子どもに起こりがちな影響】
・いつもどこかで緊張しており、楽にゆったり過ごすことができない
・消極的でいつも人にゆずってばかりになってしまう
・怒りや嫌悪感をうまく表現できない

なぜ毒親はネガティブな振る舞いをしてしまうのか

子供に対するネガティブな行動を繰り返す毒親。
彼らはなぜそんなことをしてしまうのか。

実は毒親自身が幼少期に親からしっかり心を支えてもらった体験がない。
むしろ逆に心や体を傷つけられたリ、過大な圧力をかけられて、大きなトラウマを抱えていたのです。

そのため心の健全な成長が妨げられ、自分が生きていることに価値を見出せない苛立ちや苦しみを内面に抱えていたのです。

しかし子ども時代にトラウマを受けたからといって、その後の人生全てにネガティブな影響を与える訳ではありません。
ある面でははっきり出ても、ある面ではほとんど出ないこともあります。

ひどい毒親であっても仕事では非常に有能だったり、友人関係が非常に豊かだったり、他人からの信頼が厚い場合もあります。

また普段は虐待を繰り返すような親であっても、時には子どもをいたわったり、優しく接することもあるでしょう。

過去のトラウマの影響は常に出るものではないのです。
しかしある条件が揃った時に顕著に出やすくなります。

①大きなストレスを受けた時
②経験のない新しい状態に直面した時
③トラウマを受けた過去を思いだす場面に置かれた時

毒親にとって子育ての場面は
「ストレスがたまり」
「新しい経験であり」
まさに
「自分の子ども時代の辛い体験をを思い起こさせる」
ものなのです。

そのため過去のトラウマの影響が顕著に出てしまうのです。

例えば、虐待を繰り返す親が泣き叫ぶ子どもを見て、反応的に子どもに暴力をふるってしまうのは、こういったメカニズムがあるためです。

自分の子どもに対する毒親の接し方は、傷つき満たされなかった毒親自身の幼少期の体験を無意識の内に反映したものだったのです。

毒親の影響からの抜けるためには

毒親の影響からの抜けるためには

では毒親の影響から抜けるためにはどうすれば良いのか。
ダン・ニューハースは三つのステップを提唱しています。

ステップ1 親との不健康な心の結びつきを切る

まずは自身の内面を癒し、整理していくステップです。

(1)自分がコントロールされていたパターンを知る

過去に自分が育った環境で何が起こっていたか、また今の自分にどんな影響を起きているのかを知ること
これが出発点になります。

この際に「毒親のタイプ」を当てはめて考えてみることも有効です。

(2)望まない観念に気付く

例えば「かまい過ぎて子どもを窒息させる」親のもとで育った人は「自分一人では目の前の問題を解決することができない」「自分は無力な存在だ」と考えるクセ・観念が出来ているかもしれません。

自分がいつの間にか身に着けたネガティブな観念に気付くことが、過去の影響を減らす大きなキッカケとなるのです。

(3)精神的に家を出る

精神的に家を出るというのは、コントロールばかりする親や、傷ついた過去の出来事などから感情的に離れることです。
それによって長い間コントロールされていたため分からなくなってきた自分の感情や想いに気付きやすくなってきます。

ステップ2 親との関係を変える

「精神的に家を出る」は自分の内面的な取り組みですが、このステップはリアルな親との関係性を変えるステップです。

「親と対決する」といった劇的なものもありますが、かえってこじれてしまうリスクも大きい。

「親との対応パターンを変えてみる」といった無理なく進められる範囲内で行ってもいいですが、このステップは飛ばし、ご自身の内面のクリアリングを優先した方が結果的には進みやすいケースも多いと思われます。

ステップ3 人生をリセットする

コントロールばかりする親の影響で見についた様々な心のゆがみを取り除き、自分を癒して人間的に成長する方法

(1)情熱を注げることを見つける
(2)世の中に自分の居場所を作る
(3)自分の感情を大切にする
(4)自分を失わず、他人とのつながりを深める
(5)自分に限界をもたらせている考えは何か知る
(6)自分をもっと好きになる
(7)今現在を生きる
(8)心身をいたわる
(9)他人や周囲の状況をコントロールしたがる欲求を減らす

有害なコントロールが強い親元で育った人は自分が本当に感じていること、本当に望んでいることが分かりにくくなっていることがあります。

(1)~(9)は全てをやる必要はありませんが、ご自身が本来持っている感受性や望み、情熱などを取り戻す力になるでしょう。

まとめ

 

毒親の影響に改めて気付いたり、認識することで、親に対する怒りや悲しみが出てくることもあると思います。

また毒親のネガティブな振る舞いは毒親の幼少期に原因があることを知って、父方・母方の家系的な課題に気付き、その途方無さに絶望感を感じることもあるかもしれません。

ネガティブな過去があった事実は変えられませんが、その影響を大幅に減らすことは出来ます。

そしてネガティブな影響が減って、ようやく見えてくるものもあります。

それは否定的にしか見ることが出来なかった過去に、実は意義があったことです。

幼少期の心の傷が痛む多くの人々と、このプロセスをともに歩んでいきたいと思っています。

参考文献
Toxic Parents: Overcoming Their Hurtful Legacy and Reclaiming Your Life,Susan Forward,Bantam;2002
If You Had Controlling Parents: How to Make Peace with Your Past and Take Your Place in the World,Dan Neuharth,Harper Perennial;1999

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この記事を書いた人

アダルトチルドレン回復研究所 代表

高校1年の時、親子関係に悩みすぎて病気になり、胃の3分の2を摘出。その後小さな胃で生きる。
会社勤め(通信会社の営業、CSRコンサル)、病院勤務(心療内科の心理カウンセラー)を経て研究所を設立。
アダルトチルドレンからの回復に関する研究・啓発。カウンセリング、トラウマ解消ヒーリングの提供などを行なう。


HP:https://ac-recovery-lab.com

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