アダルトチルドレンが陥りやすい「対人恐怖症」とは

アダルトチルドレンが陥りやすい状態には様々なものがあります。

代表的なものとしては「人と思うように接することができない。」ということがあるでしょう。

これは誰もが持っている性質・資質の違いと言えるごく自然なものもあります。
一方で、極度の不安・恐怖から日常生活が送れなくなってしまう精神疾患と言われる状態まで、まさに様々なレベルがあります。

人と接することに関する様々な疾患をどう捉えるか。
最近ではアメリカの精神医学学会による診断標準化の動きに応じて「社交不安障害」という概念・言葉が日本に持ち込まれ、広がっています。

一方で日本では昭和初期の頃より長い間「対人恐怖症」として多くの研究や様々な治療が行われてきました。

両者は全くと同じものではありませんが、同じような状態をそれぞれが少し違う角度から捉えたものとみることができます。

厳密な違いはともかく、アダルトチルドレン当事者が自分が陥っている状態について理解を深めるのであれば、どちらの視点から見ても良いと思います。

今回はアダルトチルドレンの解放・回復の視点からみた「対人恐怖症」についてみていきたいと思います。

この記事の目次

1.対人恐怖症とは

対人恐怖症( taijin kyofusho, taijin kyofusho symptoms )とは何か、幾つかの定義がありますが、代表的で分かりやすいものは下記になります。

【状況】
他人と同席する場面において

【感情】
不当に強い不安と精神的緊張が生じ

【思考】
・他人に軽蔑されるのではないか
・他人に不快な感じを与えるのではないか
・嫌がられるのではないか
と心配し

【行動】
対人関係からできるだけ身を退こうとするもの

英語訳に日本語(Taijin kyofusho)がそのまま使われているのは、恥など「他人の目を気にしやすい」と言われている日本特有の社会・文化で生まれる独自の症状だと考えられていたことに由来します。

その後研究が進み、文化的環境に関わらず欧米でも同様の症状があることが分かりました。
しかも発症割合が日本、欧米でもあまり変わらないことが明らかになってきています。

2.対人恐怖症の症状

どういった場面で何が恐怖なのか、対人恐怖症には様々な症状があります。

大きく分けると下記になります。

【緊張型】
「(会議など)他人からの注目を浴びる状況において、自分が恥をかく恐怖」

【確信型】
「自分の視線、表情、容姿などの欠陥が他人に不感感を与えていること悩む」

【緊張型】「(会議など)他人からの注目を浴びる状況において、自分が恥をかく恐怖」

スピーチ恐怖
人前でうまく話せなくて、他人からバカにされたり評価が下がることを極度に気にしてしまう。
視線恐怖(他人の視線)
他者の視線を受けることが極度に苦手。視線を感じるだけで不安や苦痛を感じてしまう。
電話恐怖
上手く話せず、電話の相手や電話での会話を周りで聞いている人から変な人だと思われるのではないかと極度に気にしてしまう。
会食恐怖
食事の場で上手く立ち回れず、相手や周りを不快にさせてしまうのではないかと極度に気にしてしまう。

【確信型】「自分の視線、表情、容姿などの欠陥が他人に不感感を与えていること悩む」

赤面恐怖
自分の顔が赤くなっていることで、人から笑われるのではないかと極度に気にしてしまう。
視線恐怖(自分の視線)
「自分は目つきが悪い」など自分の視線が他人を不快にしていると極度に気にしてしまう。
醜形恐怖
自分の身体や外見を醜く感じ、他者から醜い、変だと思われるのではないかと極度に気にしてしまう
自己臭恐怖
体臭や口臭など自分のにおいが周りから不快に思われるのではないかと気にしてしまう。

上記の症状が単独で現れる場合もあれば、複数の症状を同時に持っている場合もあります。

また一般的にはその人のクセや性格として扱われやすい、異性に関する過度の不安・恐怖も対人恐怖症の一種と見て良いでしょう。

男性恐怖
男性に触れられること、男性と話すこと、男性と一緒にいることそのものへの恐怖
女性恐怖
女性との交流、女性と話すこと、女性と一緒にいることそのものへの恐怖

異性と接することの何が怖いのか、詳細を探ると緊張型と確信型は明確に分かれることもあれば、両者が混在することもあります。

3.対人を恐れる要因

人と接することに極度の不安・恐怖を感じるのはなぜか?

ネガティブな感情に取りつかれている時は自分を見失いがちになります。
自分がどういった感情に突き動かされているか把握することも難しいこともあるでしょう。

しかし不安・恐怖の要因を冷静に見つめることは、解決の糸口を掴むことになります。

「人からの拒否・低評価が怖い」

一種の「とらわれ」心理と呼ばれるものです。

【A】本人が認識しにくい、潜在的な強い願望
「好かれたい」「いい評価を得たい」など、人からよく思われたいという強い願望。(絶対~でなければならないという、強迫的なものであることも多い)

(反面として湧きおこる思い)

【B】本人が認識しやすい、想い・感情
「嫌われたらたらどうしよう」「悪い評価を得たらどうしよう」という強い不安・恐怖

【C】不安・恐怖を排除しようとする
湧きあがる強い不安・恐怖を排除しようとする

【D】排除すればしようとするほど【B】の想いに囚われて抜け出せなくなってしまう。

実は本人がこの心理的なメカニズムに気付くのは難しく、治療者などの第三者の力を借りて、ようやく自分の状態が分かる・気付くことも多い。

「人そのものが怖い」

虐待やいじめを受けた経験のある人が他人そのもの、他人という存在を恐れる

両者は混在している場合もありますが、敢えて分けてみることで、自分の状況がより掴みやすくなります。

4.対人恐怖症の原因

では対人恐怖症の原因として、どういったものが考えられるでしょうか?

本人の性格・資質

「内気な性格」は対人恐怖症になりやすい。
しかし現在、対人関係が苦手でも「自分は内気な性格だから」と片付けられるほど単純ではありません。

もちろん持って生まれた「資質」はあります。
しかし現在表れているその方の「性格」、中でも不安や恐怖心が特に強い場合は幼少期の環境が影響していることが非常に多い。

実際に幼少期のトラウマが軽減されることによって、その方が本来持っていた「外交的な性質」が現れやすくなることはよくあります。

幼少期の養育環境

特に両親が子どもに対して過干渉、無関心、ネグレクトなどの傾向があれば、子供は自分の存在そのもの、生きていること自体を不安に感じてしまいます。
そして世の中や他人に対する漠然とした不安も抱えやすくります。

こういった両親のもとで育った人は他人とあまり関わらろうとしなくなってしまいます。

大きな失敗・恥などの経験

人前の発表で失敗して恥をかいたなど、なんらかの失敗・恥の体験がキッカケとなって、過剰に人目を意識するようになったケースは多い。

人前に出る場面になると、無意識の内に過去を思いだしてしまい
「また同じ失敗・恥をかくことになったらどうしよう?」
と不安・恐怖に陥いるのです。

強いトラウマ体験

学生時代にいいじめなどを受けていた場合、この体験も原因となりえます。

「他人は自分に対して攻撃的である」
という意識が根付いてしまう。

そうすると
「自分は他人を不快にしてしまうのだ」
と考えてしまい、対人恐怖症の原因となってしまうのです。

バーストラウマの大きさ

バーストラウマとは胎児期から生後3 ヶ月くらいまでの満たされなかった欲求と傷ついた経験によって形成されるものです。
出生時には万人が持つものとされるものです。

同じ体験、境遇であってもトラウマになりやすいかどうか、また自己肯定感が低くなりやすいかどうかは、バーストラウマの強さにもよります。

バーストラウマが強ければ強いほど、明確な理由が分かりにくい漠然とした不安感を頂きやすい。
同じ失敗・恥をかく出来事に直面したとしても、より傷つきやすくなってしまうのです。

 

5.対人恐怖症の回復方法

ではどうすれば対人恐怖症は回復するのでしょうか?

カウンセリング

一人で悩んでいる時は思考がまとまらなかったり、物事を客観的に見ることが難しい。
どんな時にどんな症状が出ているのか、またどんな状況で強く症状が出るのかなど、自分の状況が見えにくくなりがちです。

そのため信頼のおける専門家にカウンセリングを受けることで、まずは自分が陥っている状況が整理・明確化されます。
そして感情的にもスッキリし、症状に向き合いやすくなっていくのです。

また本人が気づきにくい「好かれたい」「いい評価を得たい」など、人からよく思われたいという潜在的な強い願望。
これが対人関係における不安を募らせ、悪循環に陥っていることがよくあります。

この本人が認識しにくい「心のメカニズム」を見つめることできるようになると、自己理解が進み、回復に向かいやすくなります。

精神療法

精神療法で代表的なものは認知行動療法です。

対人恐怖症の症状が出る直接のキッカケは人前にでる場面です。
恐怖症の方はそういった場を
「失敗したり、恥を受けるかもしれないマイナスの場面」
と必要以上に悪くとらえる傾向があります。

この物事の捉え方(認知)を修正することで症状を軽くします。

物事を必要以上に悪くとらえる認知パターン。
このキッカケとなったネガティブな体験の影響があまり強くない場合は有効です。

一方でトラウマ体験が強ければ強いほど、認知パターンを変えることは難しくなります。

薬物療法

医師に処方される薬物療法の主な目的。
それは脳内の状態を正常化し、過剰な不安や恐怖を抑えることです。

受診のたびに医師に投薬の効果を確認・判断してもらいながら最適な処方を探っていきます。

西洋医学では感情や心の動きを脳内の働きだと考えます。
そのため過剰な不安や恐怖を脳内の神経伝達物質のアンバランスととらえ、このバランスを整えるために薬物を使用するのです。

トラウマケア

対人恐怖症の要因には幼少期のトラウマや失敗・恥体験によるトラウマが関わっていることが大半です。

そのため、要因となったトラウマを軽減させる、もしくはトラウマによる影響を減らすことが重要です。

暴露療法(Exposure therapy、エクスポージャー法)
不安障害に用いられる行動療法。患者が恐怖を抱いている物や状況に対して危険を伴うことなく直面させる。

そして
「心配していたことは起きなかった」
「平常心のまま居られた」
などの成功体験を積み重ねることで、不安や苦痛を克服させるもの。

エネルギーワーク
トラウマを一種のエネルギー体と捉え、トラウマを直接軽減させる方法。

目に見える物体・肉体を全てとする西洋医学の唯物論ではなく、気などの見えないものも含めた東洋医学的な身体構造論に基づく。

つらい記憶を思い起こさせずトラウマを軽減させることができるため、クライアントに負担が少なく、継続した処置を行いやすい。

まとめ

対人恐怖症は長らく、日本人特有の病気だと思われてきました。

西欧諸国などは、広大な大陸の中で様々な文化・言語をもつ民族同士が競合・共存する環境にありました。
人間が生きていくには、自分の意見・要求を強く主張することが必要とされてきたのです。

一方周りを海に囲まれた島国の中で、異民族との争いが少なく、長らく農耕を中心とした「むら」社会の歴史が長かった日本。
自己主張をするよりも他人の感情への配慮(遠慮・恥など)が重要な役割を果たしてきたからです。

しかし日本の社会も大きく変わってきました。

以前は強く美徳とされてきた
「恥を良しとしない」
「人に迷惑をかけない」
といった概念が薄れてきました。

いい意味で「こうあるべき」といった人の規範が緩んできたことで、自然体で生きやすい世の中になってのではないかと思います。

一方で社会全体としての意識の変化はあるものの、個々の親・家庭が生きやすい環境とは限りません。

やはり窮屈で「あるべき姿」にとらわれればとらわれるほど、対人恐怖症の要因となるトラウマが子どもにつきやすくなってしまいます。

対人恐怖症の緩和はアダルトチルドレンからの回復とも密接に関わっているのです。

参考文献
山下格『対人恐怖』金原出版 1977
日本精神神経学会 (監修) 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』 医学書院 2014
加藤正明代表編者 『精神医学事典』弘文堂 2001
「こころの科学」第147号 対人恐怖 日本評論社 2009

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この記事を書いた人

アダルトチルドレン回復研究所 代表

高校1年の時、親子関係に悩みすぎて病気になり、胃の3分の2を摘出。その後小さな胃で生きる。
会社勤め(通信会社の営業、CSRコンサル)、病院勤務(心療内科の心理カウンセラー)を経て研究所を設立。
アダルトチルドレンからの回復に関する研究・啓発。カウンセリング、トラウマ解消ヒーリングの提供などを行なう。


HP:https://ac-recovery-lab.com

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